人間存在のありのままの姿への憧憬を観客に与えている

「よい踊りの与える感銘は、


観客席にすわって、


黙って、


口をあけて、


感嘆してながめているだけのわれわれの肉体も、


本来こんなものではなかったかと感じさせるところにある。


踊り手が瞬間々々に見せる、


人間の肉体の形と動きの美しさ、


その自由も、


すべての人間が本来持っていて


失ってしまったものではないかと思わせるとき、


その踊りは成功しており、


生命の源流への郷愁と、


人間存在のありのままの姿への憧憬を、


観客に与えているのである。」

三島由紀夫
『踊り』