なるたけ早く鮮やかに獲物を仕止めたいといふ欲望
「評家は猟人に似てゐて、
なるたけ早く鮮やかに獲物を仕止めたい
といふ欲望にかられるものである。
ドストエフスキイも、
夥しい評家の群れに取巻かれ、
各種各様に仕止められた。
その多様さは、殆ど類例がない。
読んでみて、それぞれ興味もあり有益でもあつたが、
様々な解釈が累々と重なり合ふところ、
あたかも様々な色彩が重なり合ひ、
それぞれの色彩が、
互に他の色彩の余色となつて色を消し合ふが如く、
遂に一条の白色光線が現れ、
その中に原作が元のまゝの姿で
浮び上つて来る驚きをどう仕様もない。
(中略)
一条の白色光線のうちに身を横たへ、
あれこれの解釈を拒絶する事を、
何故一つの特権と感じてはいけないのだらうか。」