ひだを通り抜けて、とうとうおま

「はるかな迷路のひだを通り抜けて、


とうとうおまえがやってきた。


「彼」から受け取った地図をたよりに、


やっとこの隠れ家にたどりついた。


たぶん、


いくらか酔ったような足取りで、


オルガンのペダルのような音をたてながら、


階段を上りきった、


とっつきの部屋。


息をこらして、ノックをしてみたが、


なぜか


返事は返ってこなかった。」

安部公房
『他人の顔』
冒頭書き出し