女は被慈利が唇で触れるのを拒み

「女は被慈利が唇で触れるのを拒みもせず、ひざまずいた被慈利に脚を広げ、その赤子のままの手で被慈利の背中を撫ぜた。被慈利はその赤子のままの手の指の一本一本を口に含み吸った。女は腰を上げて被慈利の猛ったものを迎えようとし、唇に唇を重ね、被慈利はそうやる事が羽衣の天女をここにつなぎとめる事だと言うように、火陰にずぶずぶと入った。女は繰り返し昇りつめ、その女の両の手に背をかかえられながら被慈利は朝の荒くれた日の光に照らされた女を美しすぎると思った。」

中上健次
「不死」『熊野集』p.21
講談社文芸文庫 昭和63年