高山宏

パラドックスにしろアイロニーにしろ、対立する二つの世界という乖離意識が大きければ大きいだけあざとく咲き狂う魔の妖花には相違ない。とすれば人が世界ないし社会からの孤独を痛感し始めていた19世紀中葉にこそ、そしてまた圧倒的なコモンセンスの国であればこそ英国の地に、真のファンタスティコンが咲き匂ったとしても不思議はないのだ。深い挫折感、そのはざまを軽やかなフォルムと化した言葉たちが嬉戲したのである。ワイルドがいる。世をあげて「真実」をうべなう時代に「嘘」の復権を言う彼にはジョン・ダン経由でジェズイット、とりわけ大十字騎士エマヌーレ・テザウロの「欺きのトポス」が系譜している。」高山宏「パラドキシア・ファンタスティカ」P.127